離婚するはずが、極上社長はお見合い妻に滾る愛を貫く
「和歌と別れてほしい」
さっきまで病人のような顔つきだったのに、視線には強い意志が宿っていた。これが兜町の風雲児と過去に言わしめた男の真の姿なのだろう。逆らうことなどできない雰囲気だ。
しかし俺とて、こんなことをすぐに「はい」とは言えない。
「あの子がつらいと言って儂の前で泣いたんだ。たしか沖縄旅行がダメになった翌日だったかな。これまでわがままのひとつも言わずにいたあの子が、どうしても離婚したいと」
たしかあの日は沖縄に行っていたはず。旅行がダメになった? そんな話は聞いていない。
「なにか理由は言っていましたか?」
それくらいは聞く権利があるだろうと尋ねたが、白木さんは顔を横に振った。
「はっきりとは言わなかった。でも君のそばにいるのがつらいと、別れた方が君のためになるとそう言っていたな」
「俺のため? そんなはずない!」
思わず気持ちが漏れ出してしまった。
「その様子じゃ、君にも理由がわからないみたいだな」
「申し訳ありません。大切にしてきたつもりなんですが」
今さら言い訳にしか聞こえないだろう。
「結婚を勧めた儂が、離婚の話などするべきではないと思うが、儂が和歌にできる最後のことになりそうだ。だからあの子のワガママを聞いてやってほしい」