離婚するはずが、極上社長はお見合い妻に滾る愛を貫く
 こんな時にそれを出してくるなんて卑怯だ。そうは思うけれど、世話になったこの人の願いを無下にすることもできない。

 そしてここに来る前に見せた、和歌の本気の顔。

 離婚を切り出されてから、俺なりに最後の悪あがきをしてきた。もしかしたらうまくいくかもしれないと思っていたが、それも俺の思い違いだったようだ。

 離婚を切り出され、解決の糸口もつかめないまま別居が始まった。彼女が出ていった後、がらんとした彼女の部屋であるものを拾った。

 有名な神社の白い袋に入っていたのは、縁結びの御守り。紺と朱のそれはふたつ仲良く袋に入ったままだった。これを買ったのは和歌で間違いない。だとしたら誰に渡そうとした?

 元来真面目な彼女のことだ。結婚しているのに他の男にそういうものを買うとは思えない。必然的に紺の方は俺のために買ったものだろうと理解した。

 それを見た瞬間、まだあきらめてはいけないと思った。だからこそもう一度自分の態度を改めて、和歌のことを考えた。

 しかしそれも無駄に終わったようだった。

 様々なことが頭の中に映像として流れる。どのくらい沈黙していたのか。俺はどうしても言いたくなかった言葉を口にした。

「和歌と……別れます」

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