離婚するはずが、極上社長はお見合い妻に滾る愛を貫く
「慶次さんから連絡もらって。今夜だけでも一緒にいてあげてほしいって」

「そう……なの?」

 わたしは後ろにいる慶次さんを振り返った。

「ああ、今はひとりじゃない方がいいと思って」

 確かにそうだ。ただ誰かにそばにいてほしい。もう頼れるのは唯しかいないけれど。

「じゃあ、よろしく頼む」

「はい、あの。慶次さんは……」

「いいから、和歌を頼む」

 唯は頷くと「行こう」とわたしの手を引いて歩き出した。一度足を止めて振り向くと、慶次さんはその場に立ったままジッとこちらを見ていた。

 しっかりと目が合う。しかし彼はいつもみたいに笑ってはくれなかった。

 一方的に離婚を切り出したんだもの。それも二回も。面倒見切れないと思われてあたり前なんだから。

 自分勝手で最低なわたし。だから慶次さんの悲しそうな表情を見て、傷つくことなんて許されないんだ。

 わたしは踵を返すとエレベーターに向かって歩き出した。

 エレベーターの中でもひと言もしゃべらないわたしに、唯もジッと黙ったまま付き添ってくれた。

 部屋に入るとソファに座った。たしかこの部屋に引っ越してきた時に慶次さんがこの場所がいいと言って、ソファの場所をここにしたんだった。
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