離婚するはずが、極上社長はお見合い妻に滾る愛を貫く
顔を上げるとベランダが見える。ついこの間、あそこで一緒に星を見たんだったっけ。自立するために始めたひとり暮らし。それなのに部屋のあちこちに彼との思い出があってつらい。
「和歌、勝手にキッチン使ったよ」
唯が差し出してくれたのは、ホットココアだった。
「ありがとう。美味しそう」
マシュマロが浮かんだココアからは湯気がゆっくりと立ち上っている。ひと口飲むと甘みと苦みが口の中に広がる。体にいきわたる温かさが心を落ち着かせてくれた。
「はぁ」
大きく息を吐くと体の力が抜けた。それまで気を張っていたのでどっと疲れを感じる。
「この間ここで会った時に慶次さんと連絡先を交換していたの。お詫びしたいからって。翌日わたしと卓哉宛にお詫びの品が届いたわよ。びっくりするくらい高価なやつね」
「そんなことがあったんだ。知らなかった」
完璧な彼らしいと妙に納得してしまった。
「和歌、慶次さんのこと、よかったの? ものすごく心配してたんだよ。だからわざわざわたしのことを呼び出したの。本当は自分がそばにいたかったみたいだけど」