離婚するはずが、極上社長はお見合い妻に滾る愛を貫く
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わたしと慶次さんが出会ったのは、ふたりの見合いの日だった。二十歳のわたしは、祖父のたっての願いで見合いをすることになっていた。
はらはらと桜の舞う老舗ホテルの立派な庭園を、祖父の白木(しらき)豊(ゆたか)と歩く。
慣れない振袖を着て歩くわたしと体が以前ほど思うように動かない祖父との歩調はぴったりで、周りを歩く人とは違い、ゆっくりと見合い相手の待つ部屋に向かった。祖父はここ最近あまり体調がよくないのだ。
「馬子にも衣装とはまさに和歌のためにあるような言葉だな」
「馬子って褒め言葉じゃないよね?」
「いいんだよ、和歌は儂の〝孫〟なんだから。それに今日の和歌は本当に綺麗だ」
またそんなこと言って……。
ちょっと恥ずかしいけれど、祖父と選んだ着物姿を褒められてうれしい。普段あまり容姿について褒められることなんてないから、余計にそう思うのかもしれない。
身長百五十八センチ。あと二センチ高ければと身体測定のたびに思っている。
顔は丸顔がコンプレックスだけど、二重の目は自分でもなかなかお気に入りだ。でもそれ以外取り立てて秀でているところはなく、いわゆる〝普通〟の顔だと思う。唯一自慢できるとすれば、栗色のまっすぐな髪くらいだろうか。
「これなら小田嶋も和歌にひと目ぼれするやもしれん」
ありえないことを言う祖父に、釘をさす。
「ねえ、おじいちゃん。会うだけだからね。わたしまだお嫁に行く気はないから」
念のためにと、これまで何度も口にしてきた自分の主張を繰り返す。
「会う前からそんなことを言うな。小田嶋はあれでいていい男だからな」
この見合い話を持ってきた祖父は穏やかな笑みを浮かべる。
両親が事故で亡くなった後、当時十歳だったわたしを引き取り申し分ない教育を受けさせ、なに不自由なく育ててくれた。
わたしにとっては優しいおじいちゃんだが、巷(ちまた)ではちょっとした有名人だ。