離婚するはずが、極上社長はお見合い妻に滾る愛を貫く

「和歌さん、どうかしましたか?」

 名前を呼ばれて顔が熱くなった。絶対赤くなっているに違いない、鏡を見なくてもわかる。よく通るバリトンの声は耳ざわりがよく、自分の名前を呼ばれるとより一層胸がドキドキした。

 声もいいなんて反則……。

 それまで祖父にあれこれと言っていたにもかかわらず、ひと目見ただけでこんな状況になってしまって恥ずかしい。祖父もわたしの様子に気が付いたようで、ちらっとこちらを見てニヤニヤと笑っていた。

「和歌さん、どうぞ。座ってください」

 立ち尽くしたままのわたしに、彼は着席するように勧めた。

「はい、ありがとうございます」

 やっとのことでお礼を言って、祖父の隣に座る。すべて察したであろう祖父はしわのある手で、膝に置いたわたしの手をポンポンとした。

 心の内がすべてばれてしまっているのは恥ずかしいが、きっとわたしの反応がまんざらでもないことがわかって、見合いを勧めてきた祖父はうれしいに違いない。

「今日は呼び出してすまなかったな。どうだ最近は」

「はい、おかげさまで順調にやっています」

「和歌、こちらは小田嶋慶次くん。お前は見合いを嫌がっていたから、名前さえ知らなかったんじゃないのか?」

 いきなりの祖父の攻撃に焦る。

「おじいちゃん! 今そんな話しないでよ」

「ははは。慶次くん。こっちは儂の自慢の孫。和歌だ」

「お噂はかねがね。よろしくお願いします、和歌さん」

「はい、あの、こちらこそ」

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