離婚するはずが、極上社長はお見合い妻に滾る愛を貫く

「わかったわかった。和歌ちゃんにはかなわない。その代わり、後で儂と一局頼む」

 石橋さんに「望むところです」と返し、和歌さんは続けた。

「おじいちゃんも、子どもみたいにムキにならないで。次喧嘩したら、囲碁を隠しますからね」

「わかった、わかった。最近の和歌は怖い」

 孫の言葉にデレる姿は、本当に経済界のドンなのかと思うほどだ。

「よかった。じゃあふたりとも、仲良くしてくださいね」

 豆大福を置いて、颯爽と戻っていく。廊下を曲がったところにいる家政婦に見せたピースサインをするおどけた顔が、ものすごくチャーミングだ。


 天真爛漫(らんまん)。作り笑いではないその笑顔が、俺の胸に深く刻まれた。俺自身が家族に恵まれたとは言いづらい環境で育った。両親は長い間別居しており顔を合わせれば喧嘩ばかり。

 親戚とも縁遠く裕福で何不自由なく育てられたけれど、温かさとは皆無の少年時代を過ごした。

 今となっては充実した毎日を送っており、そんな過去の感傷にひたることなんてないけれど、彼女の笑顔を見た瞬間にあのころの自分が欲しかったものがこれなのではと思えた。

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