離婚するはずが、極上社長はお見合い妻に滾る愛を貫く
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この歳でひと目ぼれなんて信じられない。自分でもそう思うけれど、幸い和歌も結婚に同意してくれた。まだ学生の彼女を守るためにも、結婚については公にしなかった。
ふたりの関係が盤石でないというのも、公表しなかった理由になる。しかし和歌が来月就職するにあたりここでひとつの区切りをつけ、今までのままごと夫婦からの脱却を図るために、改めて彼女にプロポーズをするつもりだった。
これまで一年半本当によく耐えたと思う。俺たちは籍も入れた夫婦なのだから、和歌を抱いてしまっても誰にとがめられるわけでもない。しかし和歌の気持ちを思うとそんなことができるはずなかった。好意と恋愛感情は違う。
その上彼女にとっては結婚自体が予定外のことだ。まだ二十歳だった彼女にとって将来の希望はたくさんあるに違いない。それを無視して家庭に閉じ込めておきたくなかった。
だからこそ俺は時機を待ったのだ。それなのに……なにがいけなかったのか。
大きなため息をつき、グラスを呷る。強烈なアルコールが体中をめぐる。
「まあ、そんなに落ち込むなって。俺はお前が幸せになるまでそばにいてやるからな」
「気持ち悪いこと言うな。本気で殴るぞ」
「酔ったお前に言われたって怖くもなんともない」
「は? 全然酔ってないだろ」
酔ってない。まったく! 少し頭がくらくらするだけだ。
グラスを手に取り、ひと口飲んだ。
「おい、それ俺のグラスだからな。もうやめておけ」
射水の言葉を聞きながら、カウンターに頭をつけた。ひんやりしていて気持ちいい。そしてそのまま目を閉じた。
「おい、小田嶋! 小田嶋」
射水の声がうるさいけれど、俺は意識を手放した。