離婚するはずが、極上社長はお見合い妻に滾る愛を貫く

 慌てて距離を取ろうとするけれど、抱きしめる力が強すぎて抜け出せず、びくともしない。したがってわたしはあきらめてどうするか考える。

 至近距離にある彼の寝顔はすごく綺麗で、今までこんなに近くで見たことがなかったので見とれてしまう。思わず手を伸ばしそうになって慌てて引っ込めた。

 彼を起こすべきだと思う。けれどすやすやと気持ちよさそうに眠っている様子を見るともう少しだけこのままでもいいのではないかと、ふと彼に未練タラタラの自分が顔を出す。

 もう二度とこの距離で彼の顔を見ることはないのだろうな。そう思っていたら、彼の長いまつげが揺れた。

 あ、早く離れなきゃ。

 彼が目覚める前に脱出しなければいけないと思うけれど、もがけばもがくほど慶次さんがわたしを抱きしめる腕に力を込める。これでは逃げられない。

 やがてゆっくりと彼が目を開く。そして、何度か瞬きを繰り返した。

 わたしはもう逃げられないと思い、息をのむ。

「あ、あの……」

 今の状況を説明しようと口を開こうとした瞬間。
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