離婚するはずが、極上社長はお見合い妻に滾る愛を貫く
「……で、射水が和歌に電話をしてここに戻ってきたと?」
「はい、慶次さんがすごく酔っているから心配だからって」
「あいつ余計なことを」
慶次さんは眉間にしわを寄せてネクタイを締めながら、射水さんへの愚痴を漏らす。
「すみません、余計なことでしたか?」
以前慶次さんから紹介された時に、連絡先を交換しておいたのだ。射水さんはこういう不慮の出来事を想定していたのかもしれない。さっきまでは彼と連絡を取れるようにしておいてよかったと思っていたのだけれど……。
射水さんは事情を知らないからわたしに連絡をしたのだ。だけど慶次さん自身は、わたしの顔なんて本当は見たくなかったのかもしれない。
「いや、違うんだ。和歌の方がここに来るのは嫌だっただろうなと思って。夜も遅かったし」
「それは大丈夫です。それにまだわたし一応奥さんなので」
離婚すると決まったけれど、まだ戸籍上はこの人の妻なのだ。自分で言って往生際が悪いなと思う。
「そうだよな。だったら、今後のことが決まるまではこっちで暮らさないか。和歌がこれからも安心して暮らせるように、手伝うから」
「でも……そんなことしてもらうわけには」
彼にはこれからの人生がある。お別れするわたしがいつまでも世話をかけていい相手じゃない。
「いや、俺がそうしたいんだ。これまでなにもしてあげられなかったから」
「でも!」
わたしが反論しようとした瞬間、慶次さんがスーツのポケットからスマートフォンを取り出した。画面を見て、眉間にしわを寄せる。
「まずい。七尾からだ。今夜ちゃんと話をしよう。行ってくる」
彼女の名前が出てチクッと胸が痛む。できればあまり聞きたくない。おそらくいつもなら慶次さんはすでに出社している時間なのに、連絡もなく不在なので心配して連絡をしてきたのだろう。
「はい」