離婚するはずが、極上社長はお見合い妻に滾る愛を貫く
夕食の準備をしていると慶次さんから帰宅時間を知らせるメッセージが届いた。昨日あんなことがあっても普通の生活が続いているのが不思議だ。
話し合いをするために今日は早く帰ってくるらしい。そうとなれば、いつもひとり分しか作らない食事をふたり分へと変更した。
揚げ出し豆腐に冷凍しておいた塩サバ。小松菜と揚げのさっと煮と味噌汁。随分地味なごはんだけれど、彼は美味しいと言って食べてくれる。
白木の家でも祖父の好みに合わせることが多かったせいか、わたし自身もこういう食事の方が好きだった。
そういえば、最初の頃、本当に時間がかかってしまって結局二十二時とかに食べ始めることもあったな。でも慶次さん、夕方からずっと待ってくれたんだった。
あの時は『手伝おうか?』と言われても意地を張って、結局迷惑をかけてしまったな。時間をかけたわりに品数も少なくて味だってパッとしなかったのに、彼は文句ひとつ言わずに『美味しい』と食べてくれた。
あ~ダメダメ。今日一日ずっとこんな感じだ。作業に没頭していれば彼のことを考えないで済むなんて間違い。この部屋にはいい思い出が多すぎて、なにをしていても思い出してしまう。
「こんなこと、してる場合じゃなかった」
わたしは彼の帰宅時にすぐに食事を出せるように、さっそく料理に取りかかった。