離婚するはずが、極上社長はお見合い妻に滾る愛を貫く
ちょうど食事ができあがる頃に彼が帰ってきた。出迎えて鞄を受け取る。そして先にリビングに入った慶次さんの後に続く。
「俺のも作ってくれたんだな」
「あ、もしかして済ませましたか?」
普通はこういう場合作らないのかもしれない。今さらだけど。
「いやまだだ。和歌が作ってくれていたらなってちょっと期待していた。着替えてくる」
「あ、はい」
なんでそんなことを言うんだろう。どうして離婚を切り出したわたしに彼はまだこんなにもいつもと変わらない態度なんだろう。
味噌汁をよそいながら、そんなことを考えた。
食事中もわたしたちは今までとなにも変わらなかった。他愛のない会話をしながらゆっくりと食事をとる。はたから見れば離婚を決めた夫婦には到底見えないに違いない。
けれど、食事を終えて片付けを済ませ、今後の話し合いをするためにテーブルについた時には、お互い言葉もなく普段のふたりの間にあまり流れない緊張した雰囲気が漂っていた。
最初に口を開いたのは慶次さんだ。
「今朝は悪かったな。勘違いしていたみたいだ」
勘違いって〝誰と〟? なんていじわるに思ったりする。卑屈になりそうな心を抑えて努めて冷静に話を進める。
「いえ、ただの事故なので」
わたしの言葉に慶次さんが一瞬、眉を動かした。あまりいい感情ではない時に彼はそういう顔をする。これ以上今朝の話を蒸し返しても仕方ないと思い、わたしは彼に折りたたんだままの一枚の書類を差し出した。
それを手にした慶次さんが開く。
「離婚届か……」