離婚するはずが、極上社長はお見合い妻に滾る愛を貫く
「和歌は――本当に離婚したいのか」
再度の意思確認。ここで「やっぱりやめます」と言えばどうなるのだろうか。
彼は七尾さんと付き合うこともできず、祖父の手前わたしと仮面夫婦を続け、わたしはそんな彼にいつまでも想いを寄せて苦しい思いをする。そんな未来つらすぎる。
やはりふたりの未来のためには、離婚するのが一番なのだ。
「はい。そのつもりです」
わたしははっきりと彼の目を見て伝えた。目の前にある離婚届とわたしの顔を見て、彼は思いつきでこんなことを言い出したのではないとわかってくれたようだ。
「わかった。残念だけど」
慶次さんはそう言うとチェストの引き出しからボールペンと印鑑を取り出した。そしてわたしが署名してある横に自分の名前を書く。さっと目を通した彼は最後に印鑑を押した。
「なんか、あっけないですね。わたしもう小田嶋じゃなくなるんだ」
なにも考えずに口にした言葉だった。だけどそれが引き金になって思い出したことがあって、思わずクスクス笑ってしまった。
「なに、どうかした?」
「いえ、たしか初めて〝小田嶋和歌〟って名前を書いた時、なんか恥ずかしかったなって思い出して」
わたしの話を聞いて慶次さんは「そうだったのか」と優しく微笑んだ。そんな彼に言えるはずもない。恥ずかしいと同時にとてもうれしかったのだと。彼の苗字を名乗れることで彼の特別になれたのだとその時は思ったのに。
実際はまた白木に戻ることになってしまったのだけれど。
「これで書類は不備がなければ受け付けてもらえる。ここで相談なんだけど」
「え、なにか問題がありますか?」