離婚するはずが、極上社長はお見合い妻に滾る愛を貫く
「なにもなくなったな」

「はい。綺麗さっぱりです」

「おい、なんかその言い方はやめろ」

 不機嫌そうな声が聞こえて、振り向いたけれど彼はすでに歩き出していた。

「行くぞ」

「待って!」

 わたしはもう一度だけ一年半お世話になった部屋を見回して、扉を閉じた。

 わたしたちよりも先に引っ越し業者のトラックが到着していた。今はマンションの共有スペースに養生をしているところだった。

「すぐに部屋を開けますね」

 手に持っている自分の部屋の鍵が、なんだか特別なものに思える。カードキーを差し込むと解鍵の電子音が聞こえた。

「どうぞ」

 扉を開き、業者の人たちを案内する。彼らは部屋にも養生をして、あっという間に搬入作業に取りかかった。

 あれよあれよという間に荷物が置かれていく。
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