離婚するはずが、極上社長はお見合い妻に滾る愛を貫く

「和歌、これはここでいいのか?」

「えーっと。大丈夫」

 家電や家具の大きなものが先で、その後段ボールも次々と運び込まれる。

「新婚さんですか? いいですね」

 女性の作業員が荷ほどきしながらわたしに微笑んだ。

「え、違うんです。実は……」

「そう見えますか、俺たち」

「はい。とても仲よさそうなご夫婦で」

 確かに立ち会いは夫と書類に書いた。だから間違いではない。ないけれど……。

 これから離婚するんです。なんて説明する必要ないか。

 この部屋に引っ越してきたということは、お別れの日が刻一刻と迫ってきていることを意味する。寂しいけれどそれが現実。

 搬入作業が終わり、ふたりきりになった。

「すごいですね。ほとんど片付きました」

 キッチンには使いやすいようすでに食器や調理器具が並んでおり、洋服もクローゼットにしまわれている。あとは下着や貴重品だけ片付ければいい。

「これで和歌の希望通り、入社式までに引っ越し完了したな」

「はい。全部慶次さんのおかげです。あの、わたしうっかりしてすべて慶次さんに立て替えてもらっていて申し訳ないです。こういうところが、ダメなんですよね。おいくらですか」

「いらない」

「そうはいきません!」

「だったら、離婚の慰謝料だと思ってくれ」

「でも! わたしは慶次さんから慰謝料を払ってもらう必要なんてないですから」

 これからはひとりで全部やっていかなくてはならない。失敗をしながら時々痛い思いもして。

 もう祖父も慶次さんもいないのだから。
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