離婚するはずが、極上社長はお見合い妻に滾る愛を貫く

 わたしはまっすぐに彼の目を見つめる。すると彼は観念したかのように、はぁと大きく息を吐いてから「わかった」と言った。

 こういうところも好きだったんだよね。たまに強引で話を聞かないこともあるけれど、こうやって真剣に伝えれば、きちんと聞いてくれる。年下だからといって、決してわたしを軽んじることがなかった。

 別れることになったのに、彼の好きなところばっかり思い出してしまう。これ以上一緒にいると別れがたくなる。

 なによりも今彼に見つめられて、ときめいている自分を自覚している。

「じゃあ、気を付けて帰ってね」

 だからわたしはそう言って自ら歩き出した。自動ドアをくぐり、そこで思わず足を止めた。

 カッコよく去っていくつもりだった。エレベーターに乗り込むまでの我慢だったのに、それさえできずに彼を振り返ってしまう。

 すると慶次さんはその場から動かず、パンツのポケットに手を入れたままこちらを見ていた。

 ガラス越しに目が合い数秒見つめ合った。そのことになんの意味があるのか、お互いの気持ちはわからない。もっと一緒にいたかったという思いが今さらながらにある。でも叶わないことをわたしは知っている。

 大きく息を吐いて踵(きびす)を返した。わたしは今度こそ振り返らずにエレベーターに乗り込んだ。

 こうやって少しずつ、ひとりの生活に慣れなくてはいけない。そしてそれがいつか自分の日常になるのだと信じて。
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