離婚するはずが、極上社長はお見合い妻に滾る愛を貫く


 それから一週間後。入社式を翌日に控えた三月三十一日。

 明日着ていくスーツをクローゼットから出し、カバンに必要なものを準備する。

「えーと、筆記用具とメモはとりあえず用意して、あとは歯ブラシと、ストッキングも余分に持っておいた方がいいかも」

 心配性のため持ち物がどんどん多くなっていく。アルバイトもしたことのないわたしがうまくやっていけるのか心配だけれど、新しい生活が始まることにわくわくもしていた。

 その時、外から音が聞こえてきた。それと同時に左側の部屋から物音がする。玄関まで行ってドアスコープを覗き込む。すると先日わたしが引っ越しした時と同じ業者が荷物を運んでいた。

 今日引っ越しなんだ。もしかしたらわたしみたいに明日から新しい環境に飛び込む人なのかもしれないな。今日はさすがに向こうが忙しいだろうから、挨拶はまた別の日にしよう。

 隣に引っ越ししてきた誰かもわからない相手に勝手に親近感を覚えた。
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