幸せな呪い
幸せな呪い
幸せな呪い


「イケアシツにこれ、運んでおいて!」

学部主事という、普通の学校では教務主任に当たる先生から渡されたのは、ひじ掛けのついた児童用椅子。
座面や背もたれが大きな、初めて見る形の重たくてごつい椅子だ。

それよりイケアシツって、何? IKEAが頭に浮かんだけれど、きっと違う。

ぽかんとする私を見下ろす学部主事が、苛立ちを隠せない口調で指示を出す。

「玄関入ってすぐ右! 医療的ケアが必要な子どものための部屋です!」

「あ、はいっ! 今すぐ行ってきます!」

教員免許を取得するためには「介護等体験」が必修となり、うちの大学では老人ホームに一週間、特別支援学校に二日間、実習へ行かなくては単位がもらえない。

今日から二日間はこの特別支援学校で実習、再来週は市内の特別養護老人ホームへ行くことになったのだが、正直なところ不安しかなかった。
祖父母と暮らしたこともない私が『介護』などできるのだろうか。
いや、ここまで来てしまったらやるしかないのだけれど。
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