幸せな呪い
「この子の母親も看護師なんだけど、けいれんがあった日は夜勤で、僕ひとりで面倒を見ていた。僕がもっと早く病院へ連れて行けば良かったとか、妻もその日くらい仕事を休めなかったのかとか、色々自分達を責めたよ」

「そう……でしたか」

何と言っていいのかわからず、ただ相槌をうつことしかできなかった。

とうや君の傍で食事を与えている看護師さんも、頷くだけだった。

「こういうことが原因で離婚する夫婦も多い。僕達も危なかった。でも、シングルでこの子を支えながら仕事をすることは不可能だし、これ以上不幸になることは誰も望んでいなかったからね。結局、僕が仕事を辞めて家事と子育てをして、妻はそのまま看護師を続けているよ」


とうや君の食事が終わり、私も自分が担当する教室へ戻った。
特別支援学校では、教室掃除を教師が行う。その後、教材作りや授業準備をして、高等部が下校するのを待って会議や打ち合わせなどが行われるそうだ。

今日一日で色々なことを体験した。
パニックになって暴れる子どもに引っかかれて流血している先生を見て驚いた。
血を流しながらも暴れる子どもを抱っこし、教室の隅でその子が落ち着くのを静かに見守っている。
流れる血を止めてもらおうと、箱ティッシュを持って駆け寄る私に、先生は笑って言った。

「ありがとう。私は大丈夫。他の子どもにけがをさせなくて良かった」

身体を張って仕事をしている、まさにそんな現場を垣間見た二日間だった。

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