幸せな呪い

するととうや君のお父さんはまた穏やかに微笑みながらこう言った。

「中一には見えないよね。身長は百三十センチ程度。寝かせたままメジャーで計測したけれど、膝が伸びないから正確ではないよ。体重は二十五キロ。そろそろ僕が抱っこして、僕の体重を引く方法では測れなくなる。二人合わせて百キロ超えてしまったら、普通の体重計では正確な数字が出ないからね」

頭をそっと撫でるその手が、とても大きい。
優しく触れる仕草が自然だなと思う。

その時、静かな医ケア室に「ぷう」という音が響き渡る。
おならの音だ。断じて私ではない。となると……。


「こら、登也! こんな可愛い女性の前で失礼だぞ」

「え?」

驚いてお父さんを見たら、指先でとうや君の鼻をつんつんし始めた。

「また登也のせいで誤解されただろう。『ボクはおならなんてしません』みたいなすました顔して」

鼻を触られても身動きひとつしないとうや君が、こんなに大きなおならをするなんて信じられないけれど、お父さんが嘘をついているようにも見えない。
とうや君は無表情のまま、ベッドの上の天井を見つめている。
今のおならを肯定も否定もしていない。
< 5 / 19 >

この作品をシェア

pagetop