幸せな呪い
「あ、あなた、ちょうど良かった。もう医ケア室、わかるでしょ? これ置いてきて」
「はいっ!」
放課後、また玄関で学部主事に呼び止められ、今度は車載用ジュニアシートを手渡された。
ちょっと大きなそれを抱え、私はまた医ケア室のドアをノックする。
中から女性の返事が聞こえた。
「失礼します。実習生の上田です。ジュニアシートを持ってきました」
「待って、開けてあげますから」
両手が塞がっているので有難く待っていると、ドアを開けてくれたのはとうや君のお父さんだった。
まだ学校にいたということに、ちょっと驚いた。
「お疲れ様。小学部はもう授業が終わったんだね」
そう言って、私が持っているジュニアシートを見る。
このシートはついさっきまでスクールバスの中で使っていたものだった。
一人では姿勢を保持できない子どもを支えるために、バスの車内でもこれを使っているというのをはじめて知った。
「はい、もうスクールバスも戻ってきました」
「あら、お知り合いなの?」
部屋にいた女性が声をかけてくれた。
「いえ、今朝初めてお会いしました」
「そうなのね。佐々木さん、フレンドリーなここの主《ぬし》だから。私よりずっと長くここにいらっしゃるの」