幸せな呪い
白いお腹の一部にピンク色の穴があり、そこにチューブが取り付けられている。
生々しさは不思議と感じない。
クリーム色の液体がチューブを通って胃に流れていくのを、私はじっと見つめる。

「じゃあ、気の利いた会話のできないシャイな息子に代わって僕が聞こうかな……。上田さんの好きな食べ物は何ですか?」

「えっと、イチゴです」

食べられない人の前で、好きな食べ物の話をしてもいいのだろうかと一瞬考えたけれど、素直に答えてしまった。

「そっか、イチゴね。実は登也の好きな食べ物もイチゴだったんだ」

「え……?」


とうや君は、一歳二か月まで元気な「ごく普通の子ども」だったという。
その頃にはもう歩けたし、片言でママとかワンワン、なんて喋っていたそう。


ある日、病気知らずのとうや君が生まれて初めて熱を出した。
病院では恐らく突発性発疹だろうと診断され、薬を飲ませて家でゆっくり休むようにと指示された。
熱があって食欲がないとうや君も、大好きなイチゴは食べていたとのこと。

「薬の後のお口直し、って言いながら、イチゴを食べさせていたんだ。それが、登也が口から食べた最後の食事、かも知れない」

その後も熱が下がらず、ついには熱性けいれんで救急車を呼んだそう。

それから意識が戻ることはなく、中学生になった今もこの状態が続いているのだと、お父さんは教えてくれた。

< 9 / 19 >

この作品をシェア

pagetop