小さな魔女は旅をする
小さな魔女は、昔、自分の魔法で、誤って愛しい人を殺してしまった。

調合した薬草も癒やしの魔法も間に合わず、優しいその人は死ぬ間際、「君には優しさを忘れずに生きていてほしい」と優しい声で魔女に言った。

魔法を使わずに生きることを選んだ魔女は、愛しい人の墓を建て、一人旅に出た。

あの人のように、優しい『人間』になれますように……


旅の途中、大きな鬼に出会った。力の強い、わがままな鬼は、洞窟に魔女を閉じ込めて魔女をペット代わりにした。

魔女は乱暴に自分を扱う鬼にも魔法を使わず、愛する人がしたように、誠意をもって接した。

鬼は次第に心を開き、自分も人間になりたいと思った。そして魔女の願いである、旅を続けることを叶えてやることにし、好きになった魔女を泣いて送り出した。


次に魔女が出会ったのは壊れかけた人形だった。

酷く扱われボロボロの人形は、魔女を、人間達にされた仕返しをするために小屋に閉じ込め、痛めつけた。

魔女はそれでも魔法を使わずに耐え、人形の苦しみを、話を聞いて少しずつ解いてやった。

人形は魔女に好意を抱くようになったが、遂には壊れてしまった。魔女は泣きながら人形に別れを告げた。


最後に出会ったのは、闇に魅入られた蛇の化身だった。

出会った魔女を闇に落とし、下僕にするために闇に閉じ込めた。

魔女は愛した人や今までの出会いを思い出し、蛇に、優しく生きるよう諭し続けた。

蛇は次第に心を入れ替え、闇を断ち切りたいと心から願った。住んでいた泉の守り神になるために魔女に別れを告げた。


旅を終えた魔女は、愛しい人の墓へ行き、「ごめんなさい…さようなら…」と言った。

魔女は、愛しい人への感謝を忘れなかった。辛い目にあったときに、自分を支えてくれたその人を思い出したから……


魔女が選んだのは壊れた人形だった。
魔女は最後の魔法を使った。自分の命に変えて……

「生きるのは悲しいことばかりじゃないの…壊れてしまったあなたに、もう一度生きてみてほしい……。優しく生きて…今度こそ、あなたが幸せになれますように……」

魔女が願ったように、人形は『人間』になった。その『人』は魔女のことを忘れてしまっていたが、いつか『誰か』がしてくれた優しさを忘れずに、生きていこうと心から思った。
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