シングルマザー・イン・NYC
通い始めたころは固い蕾だったのがどんどん膨らみ、四月に入ると、少しずつ薄桃色の花が開き始めた。そして暖かな日が数日続くと、一気に満開になった。
「日本にも桜が沢山咲くよ。私が住んでいた東京には、桜の名所が沢山あるの。家の近所にも大木があって」
懐かしいな。
東京の桜はもう散ってしまっただろうな。
その時、慧がふにゃあと声を出した。
「そういえば希和、慧はいつ日本に連れてくの? 店、予約減らせば俺一人でもやれるよ。お母さん、孫に会いたいんじゃない?」
「……あっ、お母さん、五月にまた遊びに来るって。だから当分日本は行かなくていいかも」
その時、辺りを照らしていたオレンジ色の西日がふっと消え、空気の色が薄青く変わった。
日本の話をしたからだろうか、不意に篠田さんのことが頭をよぎった。
東京に戻ったら、篠田さんのことをたくさん思い出しそうで怖い。
もし、篠田さんの婚約者だと言っていたあの女性――西宮葵さん――の言っていたように政治家に転身していたら、自然と篠田さんの情報を見聞きしてしまうのではないか。
ニューヨークでこうして仕事と子育てに忙しくしていれば、余計なことを考えずに済む。
「日本にも桜が沢山咲くよ。私が住んでいた東京には、桜の名所が沢山あるの。家の近所にも大木があって」
懐かしいな。
東京の桜はもう散ってしまっただろうな。
その時、慧がふにゃあと声を出した。
「そういえば希和、慧はいつ日本に連れてくの? 店、予約減らせば俺一人でもやれるよ。お母さん、孫に会いたいんじゃない?」
「……あっ、お母さん、五月にまた遊びに来るって。だから当分日本は行かなくていいかも」
その時、辺りを照らしていたオレンジ色の西日がふっと消え、空気の色が薄青く変わった。
日本の話をしたからだろうか、不意に篠田さんのことが頭をよぎった。
東京に戻ったら、篠田さんのことをたくさん思い出しそうで怖い。
もし、篠田さんの婚約者だと言っていたあの女性――西宮葵さん――の言っていたように政治家に転身していたら、自然と篠田さんの情報を見聞きしてしまうのではないか。
ニューヨークでこうして仕事と子育てに忙しくしていれば、余計なことを考えずに済む。