シングルマザー・イン・NYC
ほんの軽く手をつなぎ、二人で中華街を進んでいく。

しばらく歩くと、立ち並ぶお店の看板に漢字が目立ってきた。
気のせいか、薬局が目立つ。

大きな通りを左に曲がると、そこは行き交う人も言葉も、さらには匂いまで、完全に中国だった(行ったことないから想像も混ざってるけど)。

カエルや鶏が売られているのもなかなか衝撃的で。


目当ての中華料理店はごく小さな間口で、おしゃれ度なんて全然なく、「民家の一階をちょっと改装しましたよ」という程度の建物だった。

ドアを開けると中にいるのはアジア人ばかりで、店員さんは当然のように中国語で話しかけてきた。

「うぉ、すごいディープ」

篠田さんがいかにも思いがけなく漏らした一言に、笑ってしまった。


店内は混みあっていて、テーブルは適度に汚れていて、料理は紙皿で供された。
でもとてもおいしくて、篠田さんも私もたくさん食べた。

水餃子を二皿、焼き餃子を二皿、ピーナツソースのかかった麺も二皿。

手の凝ったメニューはなかったけれど、これだけ食べれば当然満腹だし、安くて大満足だった。

心残りは、中国人客のほとんどが食べていた魚の骨の入ったスープに手を出せなかったこと。

見た目がいまいちで躊躇してしまったが、みんなが食べているのだから、さぞかし美味な食べ物だったのかもしれない。


私たちは、もと来た道を戻り、地下鉄に乗った。

途切れ途切れに続くおしゃべりの中で、篠田さんは、私と同じ路線の数駅北に住んでいる、と教えてくれた。

そして別れ際に慌ただしくプライベートの連絡先を交換して、私のアパートの最寄り駅でその日のデートは終了した。
< 11 / 251 >

この作品をシェア

pagetop