シングルマザー・イン・NYC
篠田樹――2
一年半前、セントラルパークで希和たち家族の姿を見たのはショックだったが、おかげで政治家に転身する決意がついた。
帰国後、母に俺の気持ちを伝えると彼女は感激し、うっすらと涙を浮かべて言ったものだ。
「樹、よく決心してくれたわね。良かった。これで亡くなったあの人にも、父にも、祖父にも、顔向けが……」
代々続く政治家一族・篠田家の出身者は母で、父は婿養子だったのだ。
「じゃあ、葵さんとの結婚も?」
期待に満ちたまなざし。
この母は、表向きは貞淑な政治家の妻で通っている。
だが実際はとてもしたたかで、父が外務大臣を務めるまでに成功したのは、母や篠田家の助力によるところが大きい。
むしろ母が父の跡を継いで立候補すればいい、とすら思う。
葵を俺の婚約者に、と見定めたのもこの母で、財界の実力者である西宮家とのつながりによって、さらに篠田家の力を強めようと画策していた。
だが、それだけは従うわけにはいかない。