シングルマザー・イン・NYC
「ただいまー」
アパートのドアを開けたが、室内はしんと静まり返っている。
窓から差し込む夕日が、白い壁をオレンジに染めていた。
……まだ夕食前だものね。
アレックスは――というか、多くの人がそうだと思うけど――デートに行ったら夕食まで済ませて帰ってくる。
私と篠田さんは遅めの昼食を食べ過ぎて、しかも初めてのお出かけだったのもあり、随分早くに解散してしまったのだ。
……腹ごなしに洗濯でもしようかな。
部屋の片隅に置いてあるメッシュのランドリーバッグ(というには巨大だが)には、今週の洗濯ものが溜まっている。
別に私がだらしないわけではなく、週1~2回の洗濯がこの街では普通だ。
部屋に洗濯機を置けないアパートが多いのだ。
その代わり、地下にコインランドリーがあって、住人はそこで洗濯をする。
乾燥機を使うのも基本。
洗濯物を外に干す、という発想はない。
そんなわけで、一回の洗濯に大体600円くらいかかってしまうので、とても毎日はできないのだ。
めんどうだけど、行くか。
やれやれ、と、ランドリーバッグを持ち上げた時だった。
iphoneが鳴った。
Itsuki Shinoda ――篠田さんだ。