シングルマザー・イン・NYC
まずい。
俺は反射的に立ち上がった。
「どちた?」
不思議そうに見上げるケイ。
「ごめん、ちょっと用事」
急いで地下のキッチンに行こうとすると、ちょうどローゼンタール夫妻がチキンとサラダを持って、階段を上がってきた。
「食事はダイニングでとりましょうね」
一階奥の一室を見やる。
そこは贅沢なテーブルと椅子がしつらえられ、いかにも富豪が客をもてなす部屋、という雰囲気だ。
「――はい。ええと、あの、今呼び鈴がなって」
「希和がケイを迎えに来たのね――イツキ、希和に会う?」
カミーユ夫人がさらりと尋ねた。
とんでもない。
会えるわけないじゃないか。
「いえ。遠慮します。希和は僕に会いたくないと思うので」
別れた時あんなに怒っていた。
それにもう、アレックスとの家庭もある。
今更、過去の男に会いたくはないだろう。
「そうかね? 別れてから――ああ、すまない――時間もたったんだし、ちょっと会うくらい」
「だめです、それはできません」