シングルマザー・イン・NYC
「ほんとだ、ぐーになってるな」
俺は思わず笑った。
「ケイの手は小さくてかわいいね」
俺は屈んで彼と視線を合わせると、手を開き、握手した。
「会えてよかった。楽しかった」
「うん、ぼくも」
もう一度呼び鈴がなる。
「ママ」
ケイがドアの方を振り返る。
「じゃあ、行きましょうか」
カミーユさんがケイの本をリュックに詰めて右手に持ち、左手はケイとつなぎ、ドアの方に向かう。
俺はダイニングルームに入ると、静かにドアを閉めた。
少しして、玄関から希和の声が聞こえてきた。
「ケイ! ごめんね、おそくなっちゃって」
懐かしいな。
「へいきー。ほん、よんでもらってたのしかった。にほんのおじさんに」
「へえ?」
希和は不思議そうだ。
「日本からお客様がいらしていて。これからディナーなの」
「まあ、そうだったんですか! すみません、ケイを預かって頂いて」
「いいの、それはこちらの台詞。私の友人が急にヘアメイクが必要になったせいで、残業をお願いすることになったんだもの。ごめんなさいね」
「いえ。また何かあればおっしゃってください」
「ありがとう。じゃあね、ケイ。また遊びにいらっしゃい」
「うん! またねー」
静かにドアが閉まり、希和とケイの気配は消えた。