シングルマザー・イン・NYC

慧と私の生活はとても順調だが、気になっていることもある。

父親である篠田さんのことだ。

慧はアレックスが結婚するまで、アレックスを自分の父親だと勘違いしていた。
彼の結婚式に参列した帰り道、

「アレックス、僕のパパじゃなかったね……?」

と私に尋ねた不思議そうな表情は、脳裏にはっきりと焼き付いている。

そして、「ママ。僕のパパ、どこ?」という慧の問いに、私はあいまいな答えではぐらかしたのだった。

幼いなりに何かを察したのだろうか、あれ以来、慧は父親のことを聞いてこない。


私は淹れたてのコーヒーの入ったマグカップ二つと、牛乳の入ったグラス一つをトレイに載せ、テーブルに運んだ。

そこでは里香ちゃん――夏木里香、数年一緒に暮らしているルームメイトだ――が、イチゴとブルーベリーで飾られたフレンチトーストを並べているところだ。

パティシエである里香ちゃんは、あっという間にとてもおいしい朝食を準備してくれる。

「いっただっきまーす」

今日も慧は元気だ。
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