シングルマザー・イン・NYC
流ちょうな英語を話すその姿には、大臣らしい威厳が身についてはいたが、それでも、六年前に別れた頃の印象はそのままで、三十九歳とは思えない若々しさを感じさせる外見だった。

「素敵よねー、篠田大臣」

コーヒーを飲みながら、里香ちゃんがため息をついた。

「知ってるの? 里香ちゃん」

「私は日本の情報、割とチェックしてるから。大臣、まだ独身なのよ。結婚するつもり、ないらしくて」

「へえ……?」

西宮葵とは別れたんだろうか。

「五年くらい前だったかな、ロックフェラーセンターで日本人女性にプロポーズしたところを文秋砲にスクープされて、ちょっとした騒ぎにはなったんだよね。でも結局、別れちゃったみたいで。今でもネットで探せば――」

里香ちゃんがスマホに手を伸ばした。

まずい。
相手が私だとバレてしまうかもしれない。

「あっ、じゃあ、今日サロンでお客さん待ってる時間に自分で検索してみるね」

必死で、でもさりげなく、里香ちゃんを止める。

「そう?」

里香ちゃんがスマホから手を離し、私はほっとした。

しかし、それも束の間。

「僕、この人に会ったことがある」

慧の爆弾発言に、私は心臓が止まる思いをした。
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