シングルマザー・イン・NYC
「……慧、気のせいじゃない? この人、日本に住んでる人だよ?」

「ローゼンタールさんちにいた。えっと、あれ何年前? 七時まで預けられた日。その後ブラちゃん送ってきてくれたから、忘れないで覚えてる。間違いない、この人だった」

この子の記憶力は、本当にすごい。
ごく幼いうちから、見たもの、読んだ本の内容、会った人など、恐ろしいほどよく覚えているのだ。

この話が本当だとしたら、慧が篠田さんに会ったのは、二歳の頃だ。

二人はお互いに父子と知らず、会っていたのか。

単なる偶然だろうか。

いや、もしかしたら篠田さんは、慧の存在を知っていたのだろうか。

あるいはローゼンタール夫妻の計らいで……?


「……ママ? ママ? ねえ、ご飯食べる手、止まってるよ。もうちょっとで学校行く時間だよ」

慧の言葉にはっと我に返る。

「ごめん、遅刻しちゃうね。おやつ、好きなの取ってリュックに入れておいてくれる? 里香ちゃんごめん、朝食、サロンに持って行って食べるね!」
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