シングルマザー・イン・NYC
「で、話って何?」
テーブルに向かい合ったカミーユさんは微笑を浮かべ、スミレ色の瞳で私を見た。
「はい、あの、慧の父親の篠田さん――樹のことで――」
篠田さんのことを「樹」と呼ぶのは違和感があるが、「さん」付けで人を呼ぶ習慣のない海外では、どうしてもこんなふうになってしまう。
カミーユさんは表情を変えない。
「今朝、彼がニュースに映っていたんです。日本の大臣として訪米中だ、と。それを見た慧が、カミーユさんのご自宅で彼に会ったことがある、と言って」
カミーユさんは静かに頷いた。
「ええ、ケイの言った通りよ。もう四年前になるわね、イツキを我が家のディナーに招待して、その時、彼らが一緒に過ごす時間を作ったの」
「――あの日、急なお客様で私が残業することになったのは」
まさか。
「ごめんなさい。私が仕組んだ」
「なぜ……」
「父子がお互いの存在を知らずにいるのが、不憫に思えて」
「その気持ちはありがたいですけど――」
二人を会わせる前に母親である私に相談して欲しかった、という言葉を呑み込んだが、カミーユさんはすぐに私の気持ちを察した。
「ごめんなさい、勝手に。でも、もしキワに伝えたら、あなた、ケイをイツキに会わせなかったんじゃない?」