シングルマザー・イン・NYC
このあたりは治安が良いからか、通りに面した窓のカーテンを開けている家が多く、室内は丸見え。
どの部屋もとても素敵なインテリアで、住人は見られることを意識しているのかな。

「七億か……」

篠田さんが呟いた。

ちょうど通り過ぎようとしている家に「House for sale(家、売ります)」の看板が出ていて、それを読んだのだ。

「相場かなって感じがします」

私の散歩コースには何軒か売り出し中のタウンハウスがあって、概ね六~十億くらい。

「そういえば、あのタワマンのペントハウス」

篠田さんがずっと向こう、マンハッタン中心部の空にひょろりと突き出した細いビルを指した。

「180億超えで売りに出たんだよね」

「すごいですよねー」

ニューヨークには信じられないほどのお金持ちが沢山いる。


私たちはさらに五分ほど歩き、ブロードウェイの交差点に出た。
マンハッタンを縦断する大きな通りで、様々なお店が立ち並ぶ。
ちなみにミュージカルなどの劇場は、この通りをずーっと南下したところにある。

「工事中の建物、多いよね」

「そうですね」

古い建物が多いせいか、街のあちこちで工事のために組んだ足場を見かける。
そしてその下には。

「このあたりもホームレス、いるんだな」

そう、ホームレスがいることがある。
雨をしのげるからだろう。

「しかも女性で」

篠田さんはポケットから一ドル札を取り出すと、毛布にくるまってうつろな目をして座る彼女の前に置かれた空のコーヒーカップに、入れた。

正直、意外だった。

私は彼女にも、他のホームレスにも、お金をあげたことはない。
考えたこともなかった。
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