シングルマザー・イン・NYC
電話
しばらく『アイリス』の前に佇んだ後、私は広い館内をゆっくりと見て回った。
楽器、アジア美術、近現代美術、アフリカ、オセアニア、南北アメリカ美術のコーナー――それぞれに興味深い展示物が沢山あるが、ややマイナーなジャンルだからか、人は少なめだ。
そのうち喉が渇いてきて、エレベーターで五階のルーフガーデンに行き、ひんやりとして気持ちの良い外気の中で、ウォッカベースのカクテルを飲んだ。
眼下にはセントラルパークが広がり、その向こうには摩天楼が見える。
プラヤホテルは、あのあたりか――。
久しぶりに会ったら、篠田さんは私のことをどう思うだろう。
必死に慧を育てているうちに、三十五歳になってしまった。
テレビで見た篠田さんはほとんど以前と変わっていなかったけど、篠田さんは私のことを「老けたな」と思ったりしないだろうか。
――少し、ふわふわしてきた。程よく酔いが回ってきた感じだ。
よし。
私はルーフガーデンを出ると、「秘密の部屋」に向かった。
初めてのデートの時に篠田さんが教えてくれた、ガラスケースの中に様々な美術品が整然と並ぶ、倉庫とアンティークショップの中間みたいな場所だ。
あそこなら人がほとんどいないし、ソファもあるから、落ち着いてホテルに電話できるだろう。