シングルマザー・イン・NYC
「あれ? お母さん、いつもと違う場所に行くの?」

家の前の通りを右折すると、慧が不思議そうにきいた。

篠田――樹さんと日本語で話した流れで、私のことを「お母さん」と呼ぶのが、なんだかくすぐったい。

「うん。今日はカレーだから、ミッドタウンの日系スーパーに行くよ」

地下鉄で数駅南下するとニューヨークのほぼ中心部に出るのだが、そこには、日系のお店がいくつかあるのだ。

スーパーだけでなく、書店、古本屋、それに和食店も。

豆腐や海苔は近所のスーパーでも手に入るけれど、カレールーは売っていないので、遠征しなくてはならない。

ニューヨークと言えば多くの人が思い浮かべるであろうタイムズ・スクエアで地下鉄を降り、地上に出る。たくさんの観光客が行き交い、何度来ても独特の高揚感が漂っている場所。

少し歩いて、ニューヨーク公共図書館の前を通り、目的のスーパーへ。
買い物を済ませた私は、ふと、ロックフェラーセンターに寄り道することを思いついた。

まだツリーが飾ってあるはずだ。
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