シングルマザー・イン・NYC
実は、その辺のことはまだ話し合っていない。

「大切なことだから、直接会って、ゆっくり話して決めようって」

そう樹さんは言ってくれたが、現在の立場上、彼がニューヨークで暮らすことは考えられない。

「ねえアレックス。私がもし帰国することになったら――サロンはどうする?」

「やめる」

「えっ? 代わりに誰か雇うとかじゃなくて?」

「うん。サロン・ローゼンタールは、キワと俺の店っていう気持ちが強くて。他の美容師と一緒にやるのは想像できない。それに」

「それに?」

「またジェイドが海外赴任する時期がくるから、一緒に行けたらと思って。幸い俺は手に職があるしさ」

外交官であるジェイドは、各国の大使館で勤務する。
ついて行きたいと思うのは、自然なことだろう。

「そう……」

私だけじゃなくアレックスにも、転機が訪れているんだな。
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