シングルマザー・イン・NYC
私が驚く間もなく、樹さんはジーンズのポケットから指輪を出すと、私の左手を取り、薬指にはめてくれた。

「……ずっと、そのままポケットに入れてたの?」

「まさか」

樹さんが笑う。

「さっきまで箱に入ってたよ。俺の机の引き出しの中の。希和がシャワーしてる間に取ってきた」

「樹さんのは?」

「もちろん、あるよ」

 ほら、と、またポケットから出したのを手のひらにのせ見せてくれたので、私もグラスを置き、樹さんの指輪を手に取った。私がつけてあげようと思ったのだ。

「緊張する。男の人に指輪はめてあげるなんて、はじめてだから」

「俺も緊張する。指輪なんてしたことないから」

樹さんは背が高いから、手も大きめ。
指は長くてきれいだ。
指輪は関節の所で少しだけ引っかかったけれど、いい感じに収まった。

「どう?」
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