シングルマザー・イン・NYC

特に、初めてのお客様のカットをカットするのは、何年たっても緊張する。

髪質の他に、生え方とか、頭の形とか、色々考えるのだ。
切りすぎたら取り返しがつかないから、慎重に。

あとは、お客様がお話し好きかどうか、というのも見極めねばならない。
美容師に話しかけられすぎて嫌だ、というお客様は意外と多い。

篠田さんはどっちだろう……?

鏡に映る彼の顔を見ると、視線が合った。話してオッケーなタイプだろうか。
となると次は話題……。

「ニューヨークには長いんですか?」

私は定番フレーズを繰り出した。

「一年弱です」

「学生さんですか?」

「……ええ、まあ」

微妙な間……。
あまり身の上については話したくないのかな。

その時、カットを終えたお客様をレジに案内する途中のアレックスが、私の所にすすっとやってきて、耳元で口早に囁いた。

(希和、絵の話)

あ、そうか。
篠田さんと私の共通点には、ゴッホが好き、という共通点があるんだった。
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