シングルマザー・イン・NYC
篠田さんの言っていた「秘密の部屋」は、部屋というには大きな空間だった。
ガラス張りのショーケースが整然と並んでいる。
篠田さんと私は、一列一列、ゆっくり棚の間を歩いた。
大きな肖像画が並んだケースがあるかと思えば、別の列には椅子が沢山。
きれいなガラス瓶の棚、食器の棚、などなど、美術館とアンティークショップの中間のような、なんとも言えない魅力にあふれた空間だった。
「METの中じゃないみたい」
静かで、人がいなくて。
「でしょ。ソファもあるし。座る?」
こんなところにゆったりしたソファがあったとは。
私たちは、少し間を開けて座った。
「穴場ですね。教えてくれてありがとうございます」
「どういたしまして」
……そして訪れる沈黙。
知り合ったばかりの人と一緒の時は、こういうふうだ。
しかも、これまで付き合ってきた人たちは、クラスメイトだったり、友達の紹介だったりして、どんな人か大体知っていた。
でも篠田さんは違う。
知っているのは名前と連絡先(お店の予約時に登録してくれたから)、そして学生らしい、ということのみ。
そういえば、年齢も知らないんだった。
「篠田さんて」
「斉藤さんて」
口を開いたのは同時だった。
また訪れる沈黙。
「どうぞ」
と篠田さんが譲ってくれたので、きいてみる。
「おいくつですか?」。
「三十一」
「斉藤さんは?」
「二十七になったばかりです」
「四歳違いか」と篠田さんはつぶやいた。
「これからどうしようか。時間はある?」
私はうなずく。
「じゃ、ご飯食べに行こう。行きたいお店は?」
「いえ、特には」
ほとんど外食をしないから、お店のことはよく知らない。
「チャイナタウンでもいい? 友達が安くて旨いって教えてくれた店があって、行ってみたいんだ。でも地元民ばっかりで入りづらいかも――」
「おもしろそう。そこ、行きましょう!」
チャイナタウンは初めてだ。ワクワクする。