イケメンと数多の恋心|エアラブ掲載の短編を載せていくだけのものです。なので、1つの物語ではないです|
かさりと音をたてるそれには,私の大切な気持ちがこもってる。
味見は,ちゃんとした。必要以上に作って,お腹一杯になるまで食べた。
そして気付いたらギリギリの個数しかなくて焦ったのは,つい昨日の事。

「なに? これ」
「ガトーショコラ…です」

私が彼に渡したそれは一口サイズにカットされ,つまようじが一本刺してある。
本命であると目をじっと見つめると,彼は言った。

「ごめん」

私は覚悟していたにも関わらず息を忘れ,頭が真っ白になった。
口を開けろ,そして笑え。そう暗示をかけても,口のなかはからから。
せめて泣く前に,と立ち去ろうとしたとき。
彼は振り返ろうとした私の後頭部を片手で押さえ,自身の胸に引き寄せた。
混乱する私の耳に,喜色のある低い声が届く。

「俺も,すきだ」

私は自分の耳が捉えた音が信じられず,息を飲んだ。
そしていまだに私を包む温もりに,無性に彼の今の顔を見たくなった。
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