セカンドマリッジリング【コミカライズ原作】


「おはよう、颯真(そうま)さん。朝ごはん食べていくでしょう?」

 寝起きでリビングに向かった颯真にそう声をかけたのは、いつもと変わらない態度の花那(かな)だった。彼女はお気に入りのエプロンを付けキッチンで朝食の準備をしている。
 結局昨日はうやむやなまま別々の部屋で休むことになったが、花那のそんな様子に颯真は少しだけホッとしていた。だが花那の微笑みはどこかぎこちなく、目の周りは腫れているのが分かる。

 ――花那は昨日の夜泣いたんだろう、ということはやはり。

 また彼女は自分を置いてどこかに消えてしまおうとするんじゃないだろうか? 帰る場所も無く行く当てもない筈なのに、花那はそうまでして自分から離れたいのかと颯真は頭を悩ませる。
 結婚して五年間、契約という形に甘え花那を顧みなかったのは颯真の方だ。今さら何を言っても彼女には伝わらないのかもしれない。それでも……

「もちろん食べるよ、花那の作ってくれた朝食なら」

 ――今からでも遅くない、その可能性があるなら。だって、花那はこうしてまだこの場所に居てくれている。俺は花那に出来る限りの想いを伝えていくだけだ。

 颯真はいつもの席に座り、花那にも一緒に食事をとって欲しいと誘う。少し迷ったそぶりを見せたが、花那も自分の朝食を準備し席に座る。
 お互いが昨日の話を避けるように無難な会話だけして朝食を済ませると、鞄を持って病院へと向かう颯真をいつものように花那が見送った。 


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