セカンドマリッジリング【コミカライズ原作】
キッチンで食器を片付けながら花那は深い溜息を吐く。上手くいつも通りに振舞えただろうか、そんな事ばかりが彼女の頭の中を占めていた。
昨日の態度を見ればきっと颯真は自分に記憶が戻ったかを疑ったはず、そんな夫に対し花那はどういう態度を取ればいいのか朝まで迷っていたのだ。
「颯真さんは何も言わない、じゃあ私から話すべきなのかしら……」
片付けを済ませ、昨日子供を助けた時にできた傷に消毒をしている花那の顔色は良くない。傷が痛むわけではない、ズキズキと痛いのは彼女の心の中。
「私はあの時確かに市役所に向かったはずなのに、どうしてこんな事になるの?」
そう、あの日……花那は二人の名前の書かれた離婚届を持って市役所に出すつもりだったのに。事故に巻き込まれ一定期間の記憶を失い、またこの場所に戻ってきていた。
記憶の戻った花那は、事故の前の記憶もその後の記憶もどちらも残したままだった。そのため現状に戸惑い、颯真に何から話をすればいいのか迷っている。
――離婚に反対しなかった颯真さんが、どうしてまだ私と一緒に暮らしてるの? それも前よりずっと私たちの距離が近くなってるなんて。
五年間の結婚生活で一度も見る事の無かった、彼の柔らかな笑顔。少し怒った声、子供っぽい一面も全部が今の花那を混乱させる。
知りたかったのに、教えてもらえなかった。見せて欲しかった、けれど彼は表情を変えることは無かった。なのに、記憶をなくした花那に颯真は……
――いったい何故?