セカンドマリッジリング【コミカライズ原作】
「座ったらどうですか?」
花那のベッドの横で黙って立っている颯真に、彼女はそう声をかけた。あるのはパイプ椅子だけだが、それでもずっと立っているよりはましだろう。
それに、夫と聞いていたはずの颯真が自分からは何も話しかけようとしない事にも花那は戸惑っていた。
——どうして? 私たち夫婦なのよね、なぜこの人はさっきからずっと黙っているの?
結婚した記憶も無ければ、お互いが一緒に暮らしたころの記憶もない。まして夫だったはずの颯真の事など記憶の欠片も残っていないのだ。花那は自分から何を話しかければいいのかもわからない。
「あの……お名前、聞いてもいいですか?」
知りたいことはたくさんある、聞きたいことも山ほどある。その中でまず花那は相手の事を少しでも知る事から始めようと思った。
「深澤……って、覚えてる? 君と俺の苗字なんだけど」
「いいえ、すみません。看護師から聞いて知りました」
彼女の記憶の中の名前は西庄で、今の名前は深澤に変わってる。それもイマイチ現実味がないな、と思いながら花那はそう話す。
「そうか……俺は『はやて』に『まこと』と書いて颯真、深澤 颯真。今は恩田総合病院の外科医として働いている」
「颯真さん……颯真さん、ですね」
花那が思っていたよりも颯真は丁寧に自己紹介をしてくれた。最近三十四歳の誕生日を迎えたことや、趣味は読書やビリヤードだという事。それだけではなく得意教科や苦手な食べ物まで。