セカンドマリッジリング【コミカライズ原作】


「いや、俺は……」

 今さら二人で食事をとるなんて、颯真(そうま)には考えられない事だった。同じ家に住んでいてもずっと二人の生活はバラバラで、それで問題ないのだとばかり思ってた。
 自分たちは契約婚だから……だが、颯真はその言葉を今の花那(かな)に伝えたくはなかった。

 ——本当の事を彼女が知れば、今度こそ俺たちは終わってしまうに違いない。

 知られたくない、颯真はもう一度自分から離れていく花那の背中を見たくない気がして。それならばせめて彼女の記憶がすべて戻るまででも、と。

「食べないの? もしかして私の料理は口に合わない……?」

 花那の作る料理が口に合うかなんて分からない、颯真はいつ彼女の手料理を食べたのかも気付かないままで。
 だけど今の花那にそれを話したらきっと悲しむ気がする。今までこのやり方で何の罪悪感も感じたりしなかったのに、颯真は今になって記憶から消えた花那に申し訳なさを感じていた。

「そんな事はない、帰れそうな時間が分かれば君に連絡する。だから……」

 そんな寂しそうな顔はしないでほしい。そんな風に思ってしまう自分に颯真は戸惑っていた。

 記憶を失くしてからの花那の変化に颯真は驚いていた。今までずっと大人しいだけの妻だと思っていたのに、事故の後の彼女はまるで別人のようだった。
 ハッキリとモノを言い、感情が分かりやすく顔に出る。無口だとばかり思い込んでいたが、話し始めると意外におしゃべりで……


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