セカンドマリッジリング【コミカライズ原作】
まだ暖かい季節ではあるものの、外はもう真っ暗だ。花那の荷物はスーツケースとボストンバッグが一つ、それを駅のコインロッカーに預けて市役所に向かうつもりだった。
五年間、共に暮らしてきた相手と別れたというのに花那は無表情で歩き続ける。
ある意味、二人の出会いは運命的だったと言える。それでも花那達はお互いが運命の相手だとは考えなかった。
ギブアンドテイク、それが二人にぴったり合う関係だったから。
「私なんかを本気で相手にするわけないのよ、次男とはいえ彼は深澤カンパニーの御曹司なのだから」
そんなの最初から分かってたし、颯真とはそういう契約だった。助けてもらった恩もあり花那は颯真の提案を断ることが出来なかったのだ。
それでも花那の心の中はいつもと同じ……とはいかなかった。颯真との出会いが次々と花那頭の中に映し出される。
瞳の奥がジンと痛むのを感じ、花那はギュッと目を閉じた。
……今から五年前、颯真と出会う前の花那はダブルワークをして生計を立てていた。
花那が短大を卒業してすぐに、それまで大黒柱だった父が突然死した。もともと体が弱く持病を持っていた母は、父の死後病状が悪化し入院退院を繰り返すことになった。
花那はそんな母の医療費や生活費を稼ぐため、昼夜を問わず働いていた。