セカンドマリッジリング【コミカライズ原作】
「お母さんが……そう、だったのね」
病弱な母をずっと支えてきた花那にとって、颯真の言葉は何よりうれしいものだった。頑張っても頑張っても終わりの見えない生活で、それでも前向きに進んでよかった、と。
――そう言えば、どうしようもなくなって目の前が真っ暗になったあの時、私はどうしたんだっけ?
ふと何かの記憶の欠片らしきものが花那の頭の中をよぎる。闇の中を歩いても歩いても前に進まないような感覚、遠くから見えた眩しい光。
それから――?
「どうした、花那?」
「あ、いえ。なんでもないわ、ちょっとボーっとしちゃったみたいで」
ほんの一瞬だけ何か大切な事を思い出せそうな気がしたが、何故か花那はその事を颯真に話すことが出来なかった。
――きちんと思い出してから話した方が良い、きっとそうだわ。
花那はそう考えると颯真には何も相談することなく、その後は他の会話をして穏やかに食事を済ませた。
洗い物は自分がすると言った颯真にお風呂を済ませるように言われ、花那は浴室の広さに驚きながら入浴を済ませ自室に戻る。
当然のように部屋に設置されたベッドを見つめた後、小さな溜息をついてそのベッドにもぐりこんだ。
――事故の前も眠る時も別々だったのよね、きっと。これで私と颯真さんは夫婦と言えるのかしら?
自分が思っている夫婦の形とは大きく違う。そんな二人の関係に戸惑いながらも、疲れてしまったのか花那は深い眠りに落ちて行った。