セカンドマリッジリング【コミカライズ原作】
静かな社内ではエンジン音だけが聞こえ、何となく息苦しい感じがする。車を運転する颯真との間に和やかな会話などなく、むしろ花那は少し緊張していた。
――毎年こんな雰囲気の中で私の誕生日を祝ったのかしら?
花那の性格ならこんなに気づまりするような食事は断っていてもおかしくない。それとも記憶が亡くなる前は、二人はもっと親密な時間を過ごしていたのだろうか?
でも何度その光景を想像しても、そんな映像は浮かんではこない。今の颯真の態度があまりにもそっけないからだ。
「……服」
「え? あ……何か言った、颯真さん?」
考え事に集中していた所為で、花那は颯真の言葉を聞き逃してしまった。何か大切な事だったかもしれないと、彼女は慌てて聞き直す。
「その服、やっと着てくれたんだな。もしかして、気に入らないのかと思っていた……」
「ああ、このワンピースのこと? 可愛らしいデザインだから私に似合うか自信が無くて」
小さな花のレースは上品で、淡い黄色がこの服を柔らかく可愛らしく見せている。だが普段の花那ならば欲しいと思っても手に取る事はしないだろう。
彼女はいつもラフな服装が自分には似合うのだと思い込んでいたから。
「……いや、俺が想像した通りだった。そのワンピースはとても君に似合っている」
「そう、ですか……? ありがとう、颯真さん」
まさか颯真からそんな事を言ってもらえるとは思っていなかった花那は、ほんのりと頬を染める。嬉しさと、しっかりと自分を見られた恥ずかしさから。