セカンドマリッジリング【コミカライズ原作】
デートは一度きりで


「……俺とデートがしたい? それは本気で言っているのか、花那(かな)

 金曜の夜の夕飯時に、颯真(そうま)から明日は何をすると聞かれた花那は少し迷ってそう答えた。
 夫婦としてどこかぎこちなくはあるが、それでも五年も傍にいたのだから、二人でデートくらいはしたはずだと花那は考えたのだ。

「ええ。このまま家で過ごしてばかりの休みより、記憶を取り戻すために積極的に出来る事をしたいの。それには二人の思い出をもっと知る必要があると思って」

 この前連れて行ってもらったレストランも、素敵だとは思ったが過去を思い出すきっかけにはならなかった。
 颯真との距離はそれから確実に縮んだ気がするが、相変わらず彼は記憶に関して協力的にはなってくれない。
 だからこの機会に花那が自分の中で考えていた事を颯真に提案したのだった。

「だから、君の記憶に関しては無理に急ぐことはないと言ったはずだ。そう焦らないで花那はもっと楽にしていいんじゃないか?」

 そう、この話になるといつも颯真はこうやって花那の意見を上手く流してしまう。始めの頃はそれもそうだと納得していたが、彼はその考えを変える気はないようで……

 それもそのはずだ、颯真は五年間の結婚生活で花那をデートに連れて行ったのは一度だけだった。それも会話もなく二人でとある施設を並んで歩いただけの。
 だが颯真はその事を花那に話すことを躊躇っている、過去の自分が花那に対してどんなに冷たい夫だったかを知られるのが怖いのだ。


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