セカンドマリッジリング【コミカライズ原作】
「私が望まないような、っていうのは……?」
もし花那が思い描いている颯真との五年間が明るく優しいものだとすれば、記憶が戻ればショックを受けるはず。
それと同時にまた花那と颯真の関係も今度こそ終わる事になる。
颯真はその事を花那に告げられず、遠回しに彼女の気持ちを確かめることしか出来なかった。
「そうだ。場合によっては戻らない方が良い記憶もある、人によってはそんなケースもあるだろう?」
「それは、そうだけど……私は思い出したいと思うわ、消えた颯真さんとの五年間を」
そんな花那の意志は固く、颯真は諦めたように息を吐いた。花那が自分のために記憶を取り戻したがっている、颯真はそれが怖くもあり嬉しくもあった。
「……水族館」
「え、今なんて?」
颯真の小さな呟きが聞き取れず、花那は聞き返した。その時に右手が皿にあたりカチャンと音を立てたので焦ってしまう。
「……水族館だ、たった一度だけ花那と二人で行った場所は」
「水族館、たった一度だけ……?」
当然の疑問を持つ花那、しかし颯真はその事に応えることはなく食べ終わった食器を持って立ち上がった。
「明日、二人でその水族館へいこう。俺はもう少し仕事の調べ物をするから、花那は先に休んでいるといい」
そう言うと食器を置いて自室に戻っていく颯真の後姿を、花那はただ黙って見つめていたるだけだった。